みなさん、こんにちは。建築学科教員の生川です。この4月から4回生12名が生川ゼミに配属され、週2回月曜日と木曜日の午後に卒業設計に関するゼミ発表を行っています。当ゼミでは、学生の主体性を尊重し、司会進行、質疑応答、議事録作成に至るまで、学生同士が協力して運営しています。先生から学ぶだけではなく、学生同士が刺激をし合い、むしろ自ら学ぶ力を培ってもらえればと、日々の成長を楽しみにしています。
今回は、京都美術工芸大学と京都市京セラ美術館との共同研究で髙田光雄先生指導のもと生川ゼミが担当している『「モダン建築の京都」における堀川団地に関する建物調査』について紹介したいと思います。
●「モダン建築の京都」とは?
京都市京セラ美術館開館一周年記念展として、1872年から1970年代初頭までに竣工した現存する京都の建築「モダン建築の京都100」が選出され、36のプロジェクトが京都市京セラ美術館東山キューブにて展示されます。その構成は大きく7つのセクションに分類され、今回の堀川団地はセクション6.「住まいとモダン・コミュニティ」にて紹介されることになりました。
●「堀川団地」とは?
堀川団地は、第2次世界大戦中、延焼防止を目的に強制疎開された町家群「堀川京極」を再興するものであり、戦後に耐火造建築による防火帯として建設された店舗併存集合住宅です。日本初の鉄筋コンクリート造の下駄履き住宅群で、風通しを重視した、言わば立体京町家になっています。
令和3年9月25日~12月26日まで「モダン建築の京都」が京都市京セラ美術館にて開催されますので、是非足を運んでみてください。
【模型制作奮闘記】
このプロジェクトは、京都橘大学の土井脩史先生と土井ゼミの学生の皆さんと共同で進めています。住棟模型を京都橘大学、住戸模型を京都美術工芸大学が担当することになっており、京都美術工芸大学のリーダーは辰野霧風君です。
他にも安部維吹さん、山原麻由さん、中村陽さんが手伝ってくれています。準備は5月から始まっており、これから本格的な模型制作が始まるところです。学生が現場に関わっている様子を少しでもリアルに伝えられればということで、学生へのインタビュー形式で進めたいと思います。
●5月21日(金) 堀川団地の見どころ発見ツアー @ 堀川団地
生川:はじめて見た堀川団地の印象は?
山原:団地なのに京町家の特徴が多く取り入れてあり他にはあまりない建築だと思いました。
生川:何か気になること、気になるものは見つかりましたか?
安部:共用部分の広い廊下が特徴的でどのように活用できるか気になりました。
生川:そうですね。よい着眼点ですね。堀川団地の間取りはほぼ正方形で、住戸内の建具を開け放せば間口方向の風通しが最大限得られるようになっており、内装も真壁になっていて京町家と同じつくりになっています。また、2階の広いバルコニーも通りがイメージされていて、最近の一般的な集合住宅と比べると豊かな住空間・住環境となっています。それを五感で体感してもらえたことは貴重な経験になっていると思います。
●6月16日(水) 仮模型制作に向けての現場追加調査 @ 堀川団地
生川:今回の追加調査の目的は何ですか?
安部:図面では細部の寸法が分からなかったので、現場に行き寸法の確認をしました。
生川:実測調査を行ってみてどうでしたか?
山原:現場を見ることで立体的に捉えることができ、模型の完成イメージが出来ました。ただ、思ったより実測は大変で疲れました。
生川:そうですね。実測は意外と大変です。建物は簡単に言えば、壁、柱、梁、スラブ等で構成されているのですが、それらがどのような取り合いになっているのか、おそらく大学の課題ではあまり考えることがなかったかもしれませんが、現実の建物はその部分のおさめ方が難しかったりします。実物を細かく観察することで建築の更なる面白さを発見してもらえたのではないでしょうか。
●6月24日(木) 京都橘大学との合同会議 @ 京都美術工芸大学
生川:京都橘大学の学生さんが作成された住棟模型をみてどう思いましたか?
辰野:木材なのにレーザーカッターを使用しているので、手作業では再現できないような細かい部分まで表現されていて素晴らしいと思いました。
生川:今回の仮に制作してみた住戸模型のこだわりと今後の改善点は?
中村:できるだけ質感を出すため、畳のヘリをマスキングテープで再現し着色しました。更に、本物感を求めて布で巻き込めないか等、挑戦してみたいです。
生川:自身のために模型を制作したことはあっても、美術館に展示するために制作したことはないですよね。来館していただいた方に、堀川団地の何を見てもらうのか、何を見てもらいたいのかを改めて考えさせられるよい機会になりました。
●6月30日(水) 展示空間での現場打ち合わせ @ 京都市京セラ美術館
※7月10日(土)~ THE ドラえもん展 KYOTO2021@京都市京セラ美術館 好評開催中
生川:実際の展示空間を体験してどう感じましたか?
安部:思ったより広く、また可動式の壁なので汎用性が高いと感じました。
生川:展示レイアウトについて工夫したいことはありますか?
山原:部屋の一室にいるような感覚を感じられる空間にしたいです。
生川:展示前の展示空間を見られる機会は一般的にはないですよね。とても貴重な経験だと思います。それと、その空間を体験して、出てきたアイデアも素晴らしいと思います。美術館での展示は見せる側、見る側といった関係になりがちですが、来館者が展示に参加しているような感覚を持ってもらえるような工夫は面白いですね。今回の展示物は特に建物や空間になりますので、欠かせない視点だと思います。更なる新しい提案を楽しみにしています。
●7月9日(金) 京都橘大学との合同模型制作 @ 京都美術工芸大学
生川:京都橘大学との合同模型制作を行って何か新しい発見はありましたか?
中村:塗装チームに木部の色決めを行うことになったのですが、意外と実物の色に近づけることは難しいと感じました。京都橘大学の皆さんとの話し合いで、赤色を少し混ぜることで本物に近い柔らかさが表現できることに気づきました。
生川:7月26日が〆切となっていますが、意気込みをどうぞ。
辰野:京都美術工芸大学として恥じないように頑張っていきたいと思います。
生川:辰野君、素晴らしい。この言葉を待っていました。学生たちは大学を卒業すると大きな社会に羽ばたいていきます。その時に一番大切なのは、責任感だと思います。そのためにはまず自身に誇りを持てるようになることです。大学の課題に取り組むだけでなく、社会とつながっている実践プロジェクトに積極的に関わっていくことで、新たな発見、豊かな経験につながっていると確信しています。ぜひ頑張ってください。
以上、少し長くなりましたが、生川ゼミの活動の1ページでした。
(准教授 生川慶一郎)