3年生が春学期に取り組むこの演習には、ユニークな点があります。それは、合計3つの課題のうち、1つ目と2つ目の課題を通して、京都を舞台に一つの「ワークプレイス(仕事場)」を設計することです。
まず第1課題では、「オフィスビル」の設計が課されます。この段階では、ゾーニング(機能や用途別の区画)、動線、構造、設備、外装、外構、近隣との関係、事業性といった実に多様な方面からの検討を重ねながら、建築物全体の設計に取り組みます。
続く第2課題では、第1課題で各自が設計した「オフィスビル」内の、「オフィス」のインテリアデザインが課されます。単なる家具の配置ではなく、「働き方」の多様化という社会状況を踏まえた、豊かな労働環境の提案が要求されます。そして、必要に応じて「オフィスビル」の設計自体にも再検討を加えながら、「ワークプレイス」全体の設計が進められます。
本学の特色として、この時期の3年生はWスクールでの建築士試験に向けた勉強も佳境に入っています。そうした大変忙しい状況のなか、豊かな発想による優れた作品が数多く生み出されました。それらの中から3作品を紹介します。
1作品目:「Base office ~ 路地 × オフィス ~」
まず目を引くのは、その外観デザインの端正さです。道路側の立面の、壁面、縦格子、空洞の凹部による抑揚のある構成は、先鋭性とともに和のテイストも感じさせます。通りに面する1階部分のみ分節を細かくし、親しみやすさを演出しているのも見逃せません。奥行き方向の、巧みなサッシ(窓枠)の分割によるリズミカルな構成も見事です。いずれも、粘り強くスタディ(検討)を重ねないと辿り着けないデザインです。
この作品は、建築デザインの秀逸さに加え、プレゼンテーション(設計内容の図、表、文字などによる表現)の正確さ、丁寧さ、美しさも高く評価されました。建築設計という行為は、実現までの過程で、様々な人々にその内容と意図を説明し、理解してもらう必要があります。作者が、そうしたコミュニケーション(相互の意思の伝達)の重要性を理解しているからこそできたことです。
2作品目:「contact.」
先ほど作品の持つ端正さとは対照的に、建築の内外とも曲線を多用した、柔らかさを感じさせる作品です。この課題では、地域の人に親しまれているソメイヨシノの木を活用することが条件となっていました。この作品の随所に散りばめられた曲線は、ここで働く人と、外部においてはそのソメイヨシノを通した地域の人々との交流を、内部においてはここで働く他の人や訪問者との交流を、さりげなく促す仕掛けになることが意図されています。桜が満開の京都の春を、作者が身をもって経験したからこその、実現させたい生き生きとした情景がよく伝わってきます。
3作品目:「日常を囲む」
敷地内に公園を計画し、その一部をなすトンネル状の遊具が、建築に組み込まれています。この仕掛けによって、なんと遊びまわる子どもたちをオフィス内から眺められるようになっています。しかし、単に奇をてらったものではありません。こうした一見不釣り合いな要素を採り入れることで、働く人の意識に働きかけ、労働環境を改善したいという思いが込められています。つまり作者は、われわれの生活における課題を見つけ出し、その解決策としてこの建築を設計しました。背景にこのように社会的なテーマを設定することで、作品はより強く受け手の共感を呼び、説得力のあるものになります。
(講師 永井秀幸)