こんにちは。建築学科教員の根來です。本年度より新設された研究室で、4年生9名が所属しています。
教育の方針~自立できる設計者を目指して~
感性と理性を両輪で磨き、実践していくことを大切にしています。KYOBIは美大ゆえに、感性の優れた学生が多いように思います。しかし実社会は感性だけで生きて行けるものではありません。特に建築設計の分野においては、設計者ひとりで完結する世界ではなく、施主がいて、つくる人がいます。さらにその向こうには、素材を生産する人がいて、地域産業が成り立っています。その結果として、風景や街並みが形成され、歴史や文化が醸成されていきます。学生たちが社会に出た時、設計という行為を通じて、多くの人と対峙し、共感しあい、ともに協働していくためには、自身の思考を相手に的確に伝える能力としての論理的思考力は必要不可欠となってきます。そんな思いから、前期は学生各自が自ら興味のあるテーマを設定し、独自の切り口を見つけ、それを深掘りし、自らの力で研究成果をあげてもらいました。そのプロセスにおいては、学生同士でディスカッションし、切磋琢磨しあい、他者の考えを包摂しながら、視野を広げていきました。私自身は、住宅設計を専門としているため、それを前提とした学生が集まってきていますが、研究主体は学生であり、その内容は下記のように多岐にわたっています。
2022年度生が取り組んだ研究テーマ(前期)~オリジナリティを求めて~
・上村一世|数寄屋建築の近代化の手法に関する研究~6人の建築家による意匠を通して~
・足立啓太|工業化住宅の変遷とその意義に関する研究
・小笹空我|自然素材から考える現代建築への活用に関する研究
・後藤愛邑|人の居場所としての住宅の在り方に関する研究~コロナ禍で気づいた暮らしの変化に着目して~
・清水美洸|子育てのための住空間に関する研究
・山下拓己|不便さから生まれる面白みのある住宅に関する研究
・夏目優大|住まいの余白をデザインする方法に関する研究~緑の空間の使い方の事例を通して~
・西村卓也|内部と外部の境界から生じる外観のデザインに関する研究
・上山凌斗|五畿七道から見る町並みの意匠に関する研究
教室を飛び出す~リアリティを求めて~
理性を培うとともに、感性を磨くこと。それには、いい建築を見て、体感することが一番。京都やその近郊には、素晴らしい建築がたくさんあります。以下は、2022年度生有志とともに、月一回くらいのペースで出掛けた見学先です。①河井寛次郎記念館、②佳水園(設計:村野藤吾/リノベ:中村拓志)、③四君子苑(工匠:北村捨次郎/母屋設計:吉田五十八)、④孤篷庵(設計:小堀遠州)、⑤旧邸御室(数寄屋大工)、⑥廣誠院(建築:伊集院兼常)⑦蘆花浅水荘(工匠:橋本嘉三郎)、⑧ラコリーナ近江八幡(設計:藤森照信)、等々
卒業制作(後期)に取り組む~自分らしく生きる道~
後期がはじまり、現在は前期で得られた研究成果の実践の場としての卒業制作に取り組んでいます。卒業制作というのは、たいへんなエネルギーを使います。建築の学生というのは不思議なもので、就職も決まり、遊びたいだろうに、何故ここまで打ち込めるのだろう?と思うことはあります。私が言えることは、その時間は決して無駄ではなく、今後の人生の糧になるはずです。長い人生、様々なハードルが待ち受けています。ハードルにぶち当たった時は、仲間とともに切磋琢磨した時間を思い出して欲しいと思います。きっと乗り越えられます。残りの学生生活、自分にしかできない時間を過ごしてもらいたいと思っています。
(文責:根來宏典)