「たか橋」は、井上(年)研究室で2ヶ年にわたり調査研究に取り組み、その甲斐あってか「京都を彩る建物や庭園」に選定されました。
そこで、今回は、「たか橋」における調査研究のプロセスについてご紹介させていただきたいと思います。
「京都を彩る建物や庭園」とは、京都の財産として残したい建物や庭園を市民から募集してリスト化し、これらの建物や庭園を市民ぐるみで残そうという気運を高め、様々な活用を進めることなどにより、維持・継承を図ろうという制度で、京都市内に所在し、建築後概ね50年以上を経過したものが対象となります。
調査研究の成果を基に「たか橋」を推薦させていただいた結果、この度2022年2月4日、無事に選定されました。
制度については、こちらをクリック
「たか橋」は、KYOBIから見て鴨川を挟んで西側の五條楽園というかつての花街の中にあり、徒歩10分ほどの立地です。
2階建ての町家建築で、今から約100年前、20世紀初め頃の建立と考えられます。
第2次世界大戦中には地下に防空壕が掘られたり、戦後に大きな増改築を受けて今まで維持されてきました。
近年まで「お茶屋 たか橋」として営業されてきましたが、お茶屋さんの営業を終えた後は、お花の稽古場やフリーマーケットスペースなどに利用されていたものの、建物をどのように活用するか模索が続いていました。
しかし、2021年5月に「蕎麦手打ち たか橋」というお蕎麦屋さんとして生まれ変わり、新たな一歩を歩み始めました。
↖左 外観 1階は普通のおうちに見えますが、2階にお茶屋の構えが残ります。
↗右 室内の様子 和風のお座敷が癒しの空間となっています。
お茶屋さんの時代からのご縁により、2019・2020年度の2ヶ年、研究室のプロジェクトとして調査研究に取り組ませていただけることになりました。
そこで、建物の歴史や構造、保存のあり方、そして、これからの活用方法の提案などを作成させていただくことができました。
2019年度は現地調査を行い、現状の図面を作成したり破損状況を調べたり、また、建立当初の姿や改造の履歴を究明するなど、構造や仕様、歴史を明らかにしました。
2020年度は前年度の調査に基づき、町家を保存・継承していく上で重要となる政策などを調べ、更にリノベーション提案へと発展させました。
現地調査の様子。測る人と書く人に分かれて建物の現状を図化していきます。
外観や室内だけでなく小屋裏や床下なども調べました。
上が建立当初・下は現状の姿。増改築の様子がよくわかります
建築設計には、やはり建築の技術的視点と使い手側の利便性の視点が不可欠です。
リノベーション提案の作成にあたっては、建物のユーザーさんとも協議を行い、京都市による政策なども勘案しながら歴史的建造物として価値を損じないよう、また、使いやすくなるように検討しました。
ユーザーさんと改修計画検討中
建物の特性を尊重しつつ京都市の政策を参考にしたりして協議しました
また、建物の歴史を尊重して部材などをできるだけ保存し、建立当初の姿に近い形に戻しながら、更に今後100年・200年と長く使い続けられるように、「のこす」、「まもる」、「ととのえる」の3つをキーワードを用いまとめ上げました。
リノベーション案を複数案作成して比較検討することによって、よりよい提案へと結びつきます。
提案を検討するためにまずは現状模型を作成してこれを参考に複数案の計画を練り、提案がかたまると提案模型を作成しました。
こうすることによって、より現実性の高いリアルな提案が可能になります。
上 左手前が現状、右奥が提案模型
下 提案模型の内部
クオリティーの高さにビックリです!
提案通りのリノベーションは行われていませんが、内部がきれいに改装され、2階には制作模型や説明パネルが展示されています。
是非ともおいしいお蕎麦を食べがてら、より多くの方にご覧いただき、今後の歴史的建造物のあり方について思い巡らせていただけると嬉しいです。
模型と説明パネルを2階の廊下スペースに展示させていただいています
お茶屋の雰囲気を残した建物で味わうお蕎麦も絶品です。一度ご賞味ください!
このように、より多くの歴史的建造物がより良い形で保存・継承されるよう、今後も活動を続けていきたいと考えています。
現状調査:市村美空、木村智美、鈴木萌絵、竹村英里子、永田瑞歩(KYOBI 5期生)
提案作成:富田千優(KYOBI 6期生)
(准教授 井上年和)