こんにちは。建築学部 教員の井上晋一です。建築デザイン領域の研究室です。
私は、建築計画を専門とし、特に集合住宅の中間領域に着目した研究を行っています。中間領域は、異なる空間の間に存在する曖昧な領域です。海外とは異なり日本の建築空間にはこの中間領域が多く存在します。空間と空間が直接結びつくのではなく、中間領域を介して柔らかく結びついています。例えば、日本の縁側空間はこれに当たります。このような空間と空間の関係性を追求すると、人と空間の関係性や人と人の関係性を分析・考察することになります。また、関係性を考慮してデザインすることを「関係性のデザイン」と呼んでいます。
今回のブログでは、研究室での研究紹介とフィールドワークについてお伝えします。
研究室では、集合住宅だけではなく,様々な建築における関係性を研究・提案しています。
現在までの大学院生の研究テーマは
・社会的結びつきを考慮した内向型ワークスペースにおける形態条件の研究・提案
・日本画の余白概念を活用した学生寮における創作活動空間の研究・提案
・影を用いた共用空間の領域化に関する研究・提案
です。研究テーマは、本人に興味があり探求したいものを見つけ出してもらっています。おそらく大学院修了後もライフワークとして探求していくものでしょう。はじめの大学院生は、コロナ禍と言うこともあり仕事場環境の改善をテーマに研究を進めました。ここでは、オフィスにおける人と人の関係性に着目し、空間的に解決する方法を模索しました。
昨年度修了した大学院生は、学生生活(下宿)を通じて抱いていた疑問をテーマにし、見る見られる関係を具体的に表現しました。一般的には繋がりの薄い個人と社会との関係性を追求した作品です。(※京都美術工芸大学研究紀要 第3号に掲載)。
もう1人の院生は絶賛勉強中(一級建築士の受験勉強)です。
学部の学生(4年生)は、それぞれが興味を持ったテーマを見つけ卒業制作に挑んでいます。京町家・集合住宅・小学校・大規模屋外空間とそれぞれの学生が興味を持った題材を選び、テーマを模索しています。中でも、夏を旨とした京町家の空間構成を活かしたタイニーハウスを考えている学生や、自給自足のできる高齢者向け集合住宅を考えている学生がおり、フィールドワークとして参考になる『聴竹居』の見学に出かけました。
今年の新建築七月号に初掲載されている『聴竹居』は、建築家藤井厚二の設計によって1928年に建設された自邸です。大山崎に建つ『聴竹居』は聴竹居倶楽部と竹中工務店が日常管理・運営し、保存活用している重要文化財です。
今から約100年前に設計された家は、現在国が推進しているZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)とは趣向が違います。水洗便所・冷蔵庫などの当時としては最先端の設備を導入していましたが、最も注目すべき点はパッシブ・デザイン(建築的手法による省エネルギーデザイン)です。
この家は、夏を旨として設計されています。空気の通り道を精査して設計されています。ZEHでは主としてアクティブ・デザイン(設備的手法による省エネデザイン)、高気密・高断熱、創エネで構成され、いわば冬を旨とした住宅です。
われわれ教員は学生にできるだけパッシブ・デザインを考慮して設計するように指導しています。設備的手法や機密性に関しては、図面にしても表現されません。設備機器や材質の性能自体は評価がされやすいですが、空間上の工夫かと言われるとそうではありません。断面図にしたときパッシブ・デザインは、設計上の工夫が空間を通じて表現できます。『聴竹居』の図面は断面図がその省エネデザインを十二分に表現されていて、美しいです。
学生達は見学を通じてその効果を実感していました。私自身も汗かきなのですが、その涼しさを体感できました。聴竹居倶楽部の田邊均さんからは、省エネルギーに関する説明から、藤井厚二の優れた意匠デザインに至るまでたくさんことを説明していただきました。
今回のフィールドワークで得た知識や体験を卒業制作に活かしてもらいたいです。
(文責:建築学部 教授 井上晋一)