こんにちは。建築学部教員の白鳥洋子です。現在、白鳥研究室には10名の学部生と2名の大学院生が在籍し、設計制作と研究に励んでいます。
学部4年生 前期
4年生は卒業制作、卒業論文の事前研究を開始し、制作ではテーマの検討や資料収集、敷地の調査分析などを行っています。琵琶湖については堀江大地君の瀬田川洗堰に関する報告が興味深かったです。琵琶湖では1896(明治29)年に周辺のほんどの土地が237日間も浸水した大水害があり、1905(明治38)年に南郷洗堰(現瀬田川洗堰)が建設され、現在もこの堰が琵琶湖の水位を調整しています。西の湖とともにラムサール条約に登録されている琵琶湖の美しい自然の風景と安全な暮らしはこの堰に守られています。
4年生は卒業制作、卒業論文と並行し、集合住宅や家具のコンペを通じてグループ制作を行っています。NEXT21学生アイデアコンペについては現地見学を行い、特徴であるスケルトン・インフィル(柱・梁・床等の構造躯体と住戸の内部・設備等とを分離する建築の考え方)の仕組みを実際に見ることができました。中庭や屋上庭園の植栽が爽やかで、ビルが立ち並ぶ大阪の都心部では貴重な緑地になっていることを実感しました。設計当初から長年、NEXT21の設計計画に関わっている高田光雄先生からレクチャーをいただきました。高田先生、ありがとうございました。
種村俊昭先生のご案内で宝塚市西谷の集落と宝塚市自然の家を訪れました。西谷の集落は周囲を山々に囲まれ、田畑が広がるとても美しい里山です。ここでは集落内外の人々が共同で農業、教育、創作に関する活動を行っています。活動を通じたコミュニティーがあり、子供たちと大人たちの素敵な居場所となっています。
この日は坂倉準三氏(坂倉建築研究所大阪事務所)設計の「宝塚市自然の家」(旧宝塚市青少年野外活動センター、設計1972年、竣工1973年)を見学することができました。皆様、ありがとうございました。メインエントランスにある本館は横に伸びる端正なデザイン、大胆な開口のピロティ、抽象芸術のようなバルコニーの造形、窓枠の構成など、大変美しかったです。宝塚市は取り壊すことを決定しているとのことですが、20世紀の日本の近代建築を代表し、国際的にも高く評価されている坂倉準三氏の作品です。宝塚市は元より日本の財産として残されることを切に望みます。後述する旧伊賀市役所(設計:坂倉準三、1964年)は残されることが決定されており、とても嬉しく思っています。
修士課程1年生 前期
修士1年生は修士研究が始まり、テーマや研究計画を検討するなどの事前研究を開始しました。現在「オルタナティブスクール」や「天竜川流域と幻想の風景」に着目しています。修士課程では研究と並行して、築約67年の小規模な木造住宅のリノベーションの設計を行っています。河井寛次郎記念館を見学した際は同記念館の学芸員で寛次郎氏の孫にあたる鷺珠江さんにご案内いただきました。寛次郎氏の仕事場兼住居であったこの建物には日々の暮らしや仕事の中の美しさがあり、とても心に響きました。実は鷺珠江さんのお点前により河井寛次郎作のお茶碗でお茶をいただく機会がありました。お茶碗や器の存在感が大きく、暖かさが大変印象に残りました。お話からは寛次郎氏のお人柄を知ることができました。
昨年度の卒業制作
昨年度は白鳥研究室から10名のゼミ生が卒業しました。皆、新しい場所で頑張っていることでしょう。早くも5月の連休に大学に来てくれた卒業生もあり、とても嬉しかったです。昨年度も今年度も白鳥研のゼミ生たちは他の研究室のゼミ生たちと仲が良く、良い交流の中で成長しました。
宮田凌誠君の卒業制作「僕がいた街 −22年前からの置き手紙−」を紹介します。宮田君は伊賀市で生まれ育ち、日々の暮らしの中に前述の坂倉準三氏設計の旧伊賀市役所がありました。ここではその向かいに集合住宅を計画し、街の歴史や敷地のコンテクスト、住む人々の暮らしを丁寧に捉え、人と街の記憶を集積し、建築に表すことを試みました。記憶が集積される様子をダイアグラムに表現し、大きな断面図では人々がそれぞれの住居でそれぞれの個性を持って暮らしている様子を細やかに描きました。大きな木造フレームの中に一軒家のような住戸が入り、小さな前庭や納屋などに住人たちの暮らしが表出されていて、これらを大きく精緻な模型でしっかりと表現しました。学内では優秀賞を受賞し、せんだいデザインリーグ2024卒業設計日本一決定戦で100選に選出されました。応援して下さった先生方、認めてくださった先生方に心から感謝いたします。宮田君、おめでとう!素晴らしかったです。
(准教授 白鳥洋子)