建築学科3年生後期の演習「建築設計演習IIB」について紹介します。新日吉神宮建造物調査が伝統建築領域の実習内容となります。新日吉神宮は智積院の東側に位置する神社で、本学の位置する区域の氏神であり、5月の祭礼参加(社会活動)や本実習での受け入れなどで大変お世話になっているところです。
<調査実習について>
新日吉神宮は明治30年ごろに現在地に設置されたことが知られますが、創建は古く、12世紀に後白河上皇による勧請の記録があります。それ以後も戦乱を潜り抜けて今に伝わっています。本学の実習では、近世に建築され近代にも移築や新築および改造を経た貴重な遺構を、実測から製図および調査報告までまとめることを目的にしています。学校からも近く、新日吉神宮様の寛大なご協力を得て調査実習を実施させていただけるのは大変ありがたいことと思います。
<実測から製図まで>
境内地には本殿をはじめ多数の建築物がありますが、本殿の付属施設や門、塀、蔵、廻廊、手水舎など合計11棟の建築を対象としています。それらを平面図、立面図、断面図、矩計図などにまとめるため、様々な道具を使い測量していきます。
この実習では小屋組も含めた調査を実施しており、日本建築の核心にまで触れることができる実習です。それは文化財修理に直結した状態把握を目標としているからです。どういった図を書けばそれが修理作業につながる情報になるのかもイメージしながら建物と対話していきます。
調査終盤には毀損状況や改造痕跡も把握します。建物の情報を班ごとに共有するうちに、伝統建築の成り立ちや寸法体系を自然に把握することとなります。
現地作業後には実習室でCAD図面化します。日本建築の割付や寸法体系を読み解きながら進めていきます。尺寸に換算したり、木割と比較したりしながら測量誤差を修正して図化していきます。
<報告書作成まで>
毀損状態や改造痕跡を史実に照らし合わせて、建物の履歴を考察します。過去だけではなくこれからのことも考えていきます。
最終的には文化財の保存修理報告書や文化財修理における国庫補助申請に添付する状況調査などと同レベルの建物調査報告書を実習成果としてまとめていきます。この実習ではこうした一連の調査を通じ建物が持っている情報をまとめ、それらが将来に受け継がれ守られていくための資料とは何かを考えることを目標としています。実際のアウトプットを意識した調査実習は恵まれたカリキュラムであると同時に、歴史と直に触れ合う「建築技術者としての能力」が問われる現場の空気を感じ取る機会でもあるでしょう。なにより、こうした文化財を守っておられる方々が身近におられることがあってはじめて京都は京都であり続けることもよくわかります。
課題を通して学生皆さんの建築力の向上を感じました。引き続き頑張っていきましょう。
(講師 北岡慎也)