本学工芸学部(2023年より芸術学部)美術工芸学科 デザイン領域に2021年度より着任している富家大器です。各学年の実習指導や、各回学内外のゲスト講師をお招きしての座学「表現技術論」などの授業コーディネート、そして美術工芸学科の学生も姉妹校のKASD(京都建築大学校)の授業プログラムである建築計画や建築設計製図などのダブルスクールプログラムに加えて2022年度より美術工芸学科 デザイン領域4年生の空間・インテリアコースゼミ生10名の指導に当たっています。
■ゼミ見学会について
前期は卒業制作研究のための基礎的な指導を中心に展開していますが、テーマに沿った関連施設への見学も行うことがあります。なんといっても歴史都市・京都。マチは生きており、見学先に至るまでの経路全てに生活の痕跡があり、生業があります。デザインとは、いっけん表層の事物への対応とも捉えられますが、それらが成立する背景にまで思いを至らせることも重要。そんなわけで、2022年7月15日、学校からの道中にもさまざまな視点での解説を交えながら寺町二条にショールーム店舗のある「二葉家具」へ見学に出向きました。
二葉家具は、京都におけるオリジナルデザインの家具を製造直売もしながら、日本でもかなり早い段階で積層合板を使った北欧家具を紹介したり、その過程でデンマークを代表する家具デザイナーのハンス・J・ウェグナーや、京都会館(現在のロームシアター京都)の家具を全て設計した水之江忠臣など、家具デザイナー界の「神様」的存在と直接ご縁のあったメーカー&ショップ。現在もオリジナル製品をカタログラインナップしながらも、別注家具などに対応しておられます。
長い歴史を通じて一貫して言えることは「丁寧な仕事」と「本物の良さ」
こういった価値観は、ファスト家具なども多く流通する昨今の風潮でともすれば時代遅れとされることもあるかもしれません。しかし実はとても普遍的なもので、これからも通用する概念でもあります。時代の洗礼を経た作品に触れることは、文学でいえば、古典に触れることと同じです。限られた条件の中、スピーディにインスタントに何事も解決してしまいたい時代の要請とは時には異なる古くからの価値観。現代においてそのバランス感覚を見極めていくことも、今の学生にとって、大切な学びにつながります。どちらか一つが正しいのではない。時には揺さぶりをかけ、問いを発する。多様な視点を提供することも、教員の使命と常に感じています。
学生の声
・デザインされた年代が信じられないほど、今でも新鮮なので驚いた。
・家具を実際に見て、手触りの良さや、座りごこちの確かさが実感できた。
いろんな要素が組み合わさって成立する家具デザインの奥深さに改めて気づいた。
・見学に行って本当に良かった。行くまでは、よくあるものとの違いが、あんまりよく
わかっていなかった。これを機会に北欧家具の歴史などについても改めて調べてみたい。
■研究報告
ここから先は、ゼミ担当教員、富家の研究活動報告になります。
・石川県立図書館 図録集の発刊について
戦後京都を代表する建築家・富家宏泰(筆者実父・1919-2007)の作品研究をしています。2021年9月に、本館が富家宏泰設計作品である石川県立美術館別館において作品展の企画・コーディネート・広報・デザイン・設営までをほぼ自力で行いましたが、その際に様々な関係者の方にお世話になりました。
なかでも、県立美術館と同じ本多の森エリアにあり、富家宏泰が1966年(昭和41年)に設計し、石川における最初の大きな作品となった「石川県立図書館」
こちらの職員さんにもまた様々な図面資料等の提供を受けたり、見学対応いただいたりと、ご縁ができていました。図書館は途中増築を受けながらもさすがに手狭になり、2021年に移転することに。これにあたり、建物に愛着のある館員さんを中心にクロージングメモリアルとして図面と画像をメインにした冊子を作成くださっていた「石川県立図書館図録集 1966-2021」が無事発刊されました。
「質実剛健路線」だった旧館建物に相応しく、図録集の編集方針も非常に物静かで、多くを語らず、残された幾つかの当時の図面と館員職員さんたちが自ら愛着を込めて撮影した画像で構成されているのですが、唯一の文章ページ(4p相当)を執筆担当させていただきました。
「本来ならば設計者の富家宏泰さんにしか執筆の資格がないのですが・・・」との念を押されての執筆には非常なプレッシャーを感じましたが、設計者として何をたいせつにしたか、なり代わって書くとはどういうことかを思案した挙句、富家宏泰への「架空インタビュー」構成に仕立てています。
本は流石本好きの編集者のこだわりでコデックス装、背表紙のタイトルはないのですが、発色の良い良質の紙を使ってくださいました。非売品で、全国約200の主要な県立図書館に納められるとのこと。本学(京都美術工芸大学)東山キャンパス図書館にも1冊献本いたしましたので、興味があればご高覧下さい。
全国に作品のある富家宏泰研究はこれからも継続予定です。よろしくお願いいたします。
(執筆担当 京都美術工芸大学 美術工芸学科 デザイン領域 特任准教授 富家大器)