漆芸の研究室の三木表悦です。
私自身の普段の活動が「うるし」をメイン素材として様々なモノづくりに取り組むことを大切にしています。
作るためには様々な道具が必要。
ただしその道具は、その人の手の延長となるものでなければ、思うような作業はできません。
造形基礎演習2(漆芸)では、身の回りにあるものを使って様々な道具を作ることに取り組みました。
工芸の加工道具は様々なところで販売されている場合もありますが、購入しても直ぐに使う事が出来ないものが多いです。それは使う人の体格や経験に応じて、道具の調整が必要なのです。
「手入れ」と「手直し」
仕事の前には道具を「手入れ」して臨みます。
作業の内容によっては「手直し」をして目的に合った形状などに道具を調整して、作業に臨みます。
逆に言えば、市販の物を買ってすぐ使うときは、使い手がその道具の良し悪しをあまり理解していない場合もあると考えていいでしょう。
また伝統材料を基にした工芸に必要な道具の多くは、身の回りにあるもので作られているものが多いです。
現代社会においてはかなりの種類のものがインターネットなどを通じて手に入る事が出来ますが、ここでいう身の回りとは、日曜大工に必要な材料と考えればいいでしょう。
例えば竹や柳はなどはお箸や櫛などから簡易的に流用も可能でしょう。
使い終わった櫛(ヤギの角や水牛の角、鼈甲など)を使って作ることが可能な道具もあります。
鳥の羽の軸部分を使った道具などもあります。
頂きもののお菓子の箱などを流用したりすることもしばしばです。
今回の演習の中で、自分で道具を作ることでその道具に求められる性能・用途などが学べます。
また、道具の「手直し」をするためにはどうすればよいかも理解できます。
将来的に購入する場合にも、一つの判断基準が生まれます。
逆に専門家だつくった道具がどれほど素晴らしいかも理解できるかもしれません。
素晴らしい道具との出会いは、新たな創作意欲の芽生えとなることもあります。
漆刷毛などは「手入れ」と「手直し」の要素が最も強いものかもしれません。
漆の刷毛は人の髪の毛を使っています。刷毛の先の形状は様々です。
目的に応じて、角度、厚みを変えて用意します。場合によっては先を丸い形状にする場合もあります。
塗りたい厚みに応じて刷毛の厚みを変えたり、長さを変えるのです。
「手入れ」と「手直し」
道具造りを通じて、道具の目的をしっかり理解し、自分の表現したいものをよりスムースに形にするための基礎を学んでほしい。
漆は世界的に見ても優秀な素材です。
ヨーロッパなどでも高く評価されている素材で、環境負荷が少ないことが期待される素材です。
素材自体がSDGsのサスティナブルの要素を最初から備えています。
ただ、ウルシの作業は、1000年をはるかに超える技術の蓄積があり、
むつかしく考え出すととても大変な作業の連続です。
ただ、そう考えると間口は狭くなる。
うるしは楽しい!うるしはおもしろい!、うるしってかっこいい!作り手やデザイナーがまずその思いを持ち間口を広げることから始めないといけません。
道具造りもその一環ですが、むつかしく考えてはいけません。自分の指や手の延長になるものが道具。
そんな風に感じる事が出来る道具があれば、どんな作業でもとても簡単で、心のままに創作活動ができる事でしょう。
心のままに物を作るためには技術が必要。
ただし、技術や知識を意識しすぎると心が硬くなる。
心が硬くならないためには、意識せずに体が動くまで、自分の体を理解し、道具を理解し、素材を理解し反復練習する。その積み重ねが自然に出るまで、身につくまで。
自然体で物づくりに取り組んだ時、きっと出来上がったものは、品格を備え、初めて本当の意味で「作品」となるのだと思うのです。
京都美術工芸大学 芸術学部 特任准教授 四代 三木表悦