建築学科の生川慶一郎教授が、木造三階建て共同住宅[Ruelle sud/nord(リュエル シュド・ノール)]で2022年度グッドデザイン賞を受賞されました。
築50年の木造住宅を新しい木造共同住宅に建て替えた本建築は、施主が地域を離れることなく住み続けながら建て替えることを前提として計画されました。
この「地域への住み継ぎ」は、もとは1つだった敷地を2つに分割し、2棟の共同住宅を建てることで実現されています。全事業を2期に分け、第1期として現住宅を含めた敷地内に施主の住み替え先ともなる1棟の共同住宅(Ruelle sud)を建て、住み替えと敷地分割の完了後、第2期として現住宅の跡地を含む敷地にもう1棟の共同住宅(Ruelle nord)を建てたのです。
[下図:建設スキーム]
さらに、新たに生まれた隣接敷地の間には、下記(①~④)のような工夫によって、私的な空間として認知されつつもまちに開かれた「私的公共性のある路地空間」が創出されています。
①公共性を担保する外壁
開口部を最小限に止め、壁を中心とした空間構成とすることで屋外空間の公共性を保つ。
②公共性に配慮した玄関位置
屋外空間の路地に直接玄関扉が開かず、また扉の開閉が視線を遮る方向になるよう計画する。
③公共性を刺激しない開口部
地上階での屋外空間に対し住戸内からの視線が直接的に向かわないよう開口部を配置し、外部に適当な植栽を配す。
④公共性を連想させる連続性・界隈性
敷地の余白部分に連続性を持たせ、またトンネル路地と袋路を交差させてつながりのある路地空間をつくる。
[下図:私的公共性のある屋外空間を実現する4つのシステム]
また、各共同住宅の住空間は、リビングやダイニングといった生活の表舞台となる「主(main)」と、水回りや廊下といった主を支える「従(core)」の境界を壁や建具等で区切らず、「主」と「従」の関係性を柔軟にし、多様な生活シーンを許容するものとなっています。
さらに「まじきらないまじきり」となる可動式鴨居(カーテンレール内臓)を利用することで、住まい手自身の住まい方に合わせた領域の選択を許容するとともに、鴨居にかかるファブリックが空間に揺らぎある光と風を与えます。
下右上:sud 西側住戸内観(光の調整空間)/下右下:nord 2階西側住戸内観/下左:nord3階東側住戸内観
以上のように、前提条件や法規制をクリアする中で生み出された屋外・屋内ともに豊かな空間を有する建築デザインが高く評価され、このたびの2022年度グッドデザイン賞受賞の運びとなりました。優れたデザインの木造共同住宅は、SDGsの観点からも今後さらに注目が高まりそうです。
受賞対象名 木造三階建て共同住宅[リュエル シュド・ノール]
受賞デザイナー 生川慶一郎(京都美術工芸大学教授)
奥田紘太朗(奥田紘太朗建築事務所)
玉井悠嗣(株式会社 住まい工房 集)
山口雅人(株式会社 荒木造園設計)
小池沙弥花(染色作家)
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