このたび、建築学部 講師・江本弘先生の論文「シブイ・カツラ―国際的アイコンとしての日本建築・桂離宮(SHIBUI KATSURA:The Emergence of a Japanese Global Icon 1921-70)」が『建築史家協会雑誌』2023年3月号に掲載されました。
『建築史家協会雑誌』(JSAH / Journal of the Society of Architectural Historians)は、アメリカ初の建築史家の学術協会「建築史家協会」(Society of Architectural Historians/1940年設立)が1941年に創刊した建築史専門誌で、この分野のトップジャーナルのひとつです。同協会は現在、50か国以上、約3,000人の会員を有する国際的学術組織となり、同誌の発行部数は3万部を誇ります。
このような世界中の建築史家が目にする国際的専門誌に、日本の建築史家の論文が掲載されることはその80年の歴史において極めて稀で、江本先生の論文掲載は快挙といえます。
しかもそのテーマは、世界が認める日本建築の最高峰「桂離宮」の国際的評価「シブイ」について、その解釈の歴史的過程を再構築するという、京都から世界へ発信するにふさわしいものです。(※抄録は下に掲載。)
また、建築学と言語学を行き来するような内容は、建築が包含する分野の幅広さにも改めて気づかせてくれます。
建築を学ぶ方はもちろん、芸術を学ぶ方にも参考になる本論文。ぜひご一読ください。
《抄録(著者和訳)》
「カツラ(桂離宮)はシブイ(渋い)」―この根強いイメージの初出は、1960年の『ハウス・ビューティフル』の2つの特集号、「ディスカバー・シブイ」であるとされる。この特集は、日本建築の最高峰である桂離宮のイメージと、「シブイ」という「翻訳不可能」な言葉をからめて、「シンプルのなかにある豊かさ」を語った。桂離宮が世界的に有名になったのは、1920年代初頭、ドイツ語読者圏が独自に日本の木造建築を調査し、日本の建築家や評論家と関わり始めた頃に遡る。一方の「シブイ」は、1930年代以降、日本政府によって奨励され、観光や米国向けの宣伝活動に使われる美学用語となった。戦間期の亡命者による多数の出版物、また、戦後の国際的な情報交換の活発化を経て、この2つの系譜は接触し、西洋のモダニストと反モダニストの間で激しい美学論争を巻き起こした。本研究は、この対立に至る歴史的過程を再構築する。
《江本弘講師プロフィール》
昭和59(1984)年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院博士課程修了。博士(工学)。専門は近現代建築史。建築のジャポニスム研究、世界史の方法論研究のほか、ヴィクトリア朝イギリスの理論家ジョン・ラスキン、夭折の詩人・建築家である立原道造や、逓信省建築家の吉田鉄郎などを研究対象とする。 『歴史の建設―アメリカ近代建築論壇とラスキン受容』で東京大学大学院工学系研究科長賞(博士論文)、第8回南原繁記念出版賞、2022年日本建築学会著作賞受賞。
※同論文に関する紹介記事が『京都新聞』2023年7月18日朝刊に掲載されました。