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芸術学部特任教授 宮本貞治先生インタビュー ~「人間国宝」記念~【後編】

※【前編】からの続きです。

質問7)宮本先生から見たKYOBIの学生、また、同僚の玉村先生や教え子の皆さんから見た宮本先生はどうですか?
宮本先生:指導に差をつけるわけではないが、言ったら言っただけのことをしてくれたら嬉しいし、教えがいがあるな。

玉村先生:僕の知る限り先生が学生を叱っている場面はこの11年間、1回もない。ずーっと見捨てずに、ずーっとどんな子でも見てあげるんですよね。できる子にはできるもっと上、もっと上、できない子も見捨てない。で、学生たちの表情がちょっとずつ変わっていくというか、それぞれが先生にずーっと見守ってもらってるという感じがすごいあって、こうやって時間をかけて人との信頼関係を築いて教えるというのが一番いいんだなと。だから、卒業しても先生を慕う学生は沢山いる。教えるという面でも僕は、直接何も言われないですけど、先生の教え方を見て感じるところはすごくいっぱいありましたね
松原さん:先生は生徒がこうやりたいと言ったものに対して、それがどんなにぶっ飛んでたとしても、それをどうしていくかということを提案されますし、「それは無理やわ」と否定することは絶対ないです。その子の個性を生かすための教え方をされているなと思います。

山本さん:見守ってくれているというのはすごい感じてて…何でも「1回やってみ」と言ってくれるから。1回やってみてから、どうしたらいいとか次どうしようとか、「こういう形がいいんちゃう」というアドバイスをくださることはあるんですけど、自分の考えたことに対して取りあえずやってみるということを教えてもらった。失敗してもそこから学ぶことが沢山あるということで、意見を尊重してくださっているというのは感じます。

長谷川さん:授業の課題とか授業時間外でもちょっとしたアイデアを先生と話していたら、そのアイデアを何十倍、何百倍ものアイデアでいろいろ考えてくださって、その発想力とか、経験と知識をすごいなと思う。

松原さん:面白いなと思うのは機械の加工。ある機械をそのまま使うのではなくて、どうしたらそれがもっと良くなるかという、ちょっとした発想ですけど普通の人にはなかなかできない。あるものをそのまま受け取らずに、どうしたらもっと上手く使えるかとか、考え方が凝り固まっていない感じがあります。

宮本先生:僕は小さい時から機械いじりとか、電機も好き。木工のものをつくるのに、本来は木工用の道具で全然ないものを応用したりするのは生まれ育った環境というか、割と小さい時から木以外のいろんなものの人の作業を見ているから。だから木工の機械でも、自分でメンテナンスして初めてその機械を使いこなせるみたいなところがある。
玉村先生:先生のつくり込みのレベルって、ちょっと尋常じゃない。原形をとどめないぐらい改善・改良したり、まったく違う用途の物から転用したり組み合わせたりする。そういうことも楽しんでるというか…。
宮本先生:そういうのも含めてものづくりを楽しんでいる感じがする。木だけと違って、いかに効率よく安全にできないかという、そういうことを常に考えてるな。
玉村先生:転用も一つですけど、壊れた物の部品を使ってとか、すごく古い機械からとか。僕だったらあっという間に捨てるような物を割と残してて、数年後にまったく生まれ変わる。
宮本先生:そやな、「何か役に立つんちゃうかな」と思って、取って置いてしまう。

玉村先生:作品でも傷、いわゆる節とか割れとか、ここはさすがに使わない方がいいなと普通の人なら思うようなところを、逆転の発想でいい部分にされる。学生が失敗した作品を見せた時にも、この失敗を逆に利点にするにはどうしたらいいか考えるように言われています。
宮本先生:僕も若い時はそれなりに失敗しているから教えられる。失敗した経験がないと、学生が失敗した時にフォローの仕様がない。失敗して何かあってもそれをいかにフォローしてやっていくかというのも、それも一つの技術やと思う。何でもかんでも失敗しないにこしたことはないけど、人間のやることやから失敗はすると思うけど、それをいかにカバーしていくかというのも一つの技術やと思う。普通の人は見てもどこが失敗しているのか分からないかもしれない。だけど、本人は「ああ、ここ失敗したな」っていうのを分かっているもの。だから、それをいかに目立たないようにするのかも技術。自分だけが知っている失敗は毎回ある(笑)。
4年間、大学で勉強したといっても微々たるもので、自分一人でやってたら分からないことばっかりだと思う。卒業してからでも、一生懸命やるという子がいるならいくらでも応えてやりたいと思っているし、分からないことがあれば何時でも指導してやりたいと思って声をかけています。

質問8)工芸のこれからについて、思うところを教えてください。あわせて工芸を目指す学生たちへメッセージをお願いします。
宮本先生:今、若い人らも大人もほんまの無垢の木に触れる機会がない。一見木に見えるけど実は木ではないという、「木のようなもの」で囲まれているというのが殆どと思う。本来の無垢の木というのはこういうものやという魅力を伝えられたらと。それを気づいてくれるようなものをつくることができたら一番いいなと思う。機械でできるものを人がつくってても意味がないし、人の手でしかできないようなものをつくっていかんと、手でやる意味がない。木の性格や性質をみな踏まえて、人が手を加えることによってその材料としてある木に魅力をいかに吹き込むか、木というのがどういうもので人の手でつくるものはどういうものか、学生たちがそれぞれで考えて木の魅力を最大限に活かせるようなものをつくっていってくれたらいいなと思う。つくるものは何でも構わないけど、木という材料を扱うなら、そういうことを考えてどんどんつくっていってほしい。

【宮本貞治先生プロフィール:当Webサイト「教員紹介」ページ

~Information~
2024年6月、70歳記念の個展を京都で開催予定。
※詳細は2024年春頃公開します。

芸術学部特任教授 宮本貞治先生インタビュー ~「人間国宝」記念~【前編】
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