建築家・磯崎新(1931~2022)を特集した『思想』2024年1月号(岩波書店)に、建築学部講師 江本弘先生の寄稿が掲載されました。
「人文・社会・科学を中心とする『知』の最良の成果」を紹介する雑誌『思想』の一特集になることからも知られるように、磯崎新は建築家としてだけでなく、「知の巨人」とも称されるほど批評家・理論家としても著名で、建築とともに数多くの著作も残しています。
国内外のあらゆる分野の文化人と幅広い交流を持ち、建築にとどまらず戦後日本の文化芸術をけん引した人物の一人と言えるでしょう。
本誌にも、江本先生をはじめとする建築史家のほか美術史やメディア文化史、歴史社会学といったジャンルを横断した専門家12名が多彩な切り口の論考を寄せています。
その中で江本先生は「明滅する中心―《つくばセンタービル》と現代建築のヒストリオグラフィー―」と題し、日本における現代建築史では1990年代から磯崎新そしてポスト・モダン建築の代表作として語られてきた《つくばセンタービル》(1983年)を核に、歴史学における事物の同定の曖昧なあり方について論じています。
江本先生にとっては「建築討論」、『建築ジャーナル』に続く磯崎新に関する論考ですが、本稿では「ヒストグラフィーのアポリア」すなわち歴史学における難問を突き詰められ、これに立ち向かう決意表明で論を締めくくっています。それはまるで学生時代に少なからぬ影響を受けた巨人・磯崎新への宣言のようでもあり、磯崎新の孫世代にあたる研究者によって新たな現代建築史が今後どのように編まれていくのか、期待が高まります。
磯崎新や現代建築、建築史に興味のある方はもちろん、芸術や歴史など他のジャンルに関心のある方もぜひご一読ください。